文豪漱石は、座談や講演の名手としても定評があった。身近の事がらを糸口に、深い識見や主張を盛り込み、やがて独創的な思想の高みへと導く。その語り口は機知と諧謔に富み、聴者を決してあきさせない。漱石の根本思想たる近代個人主義の考え方を論じた「私の個人主義」、先見に富む優れた文明批評の「現代日本の開化」、他に「道楽と職業」、「中味と形式」、「文芸と道徳」など、魅力あふれる五つの講演を収録。
「漱石の個人主義思想は、個人に出発して、広い意味で、社会国家との関係を考えている。同時代の自然主義思想もまた個人主義思想であったが、自己の問題にとどまり、社会国家を思想的に究明することを怠った。しかるに漱石は個人の問題にとどまらず、社会、国家の問題を論理的に考え、道徳、文化等の諸般の問題に及んでいる。たとえば個人が社会に関係する仕方としての職業を考え、資本制社会の中で、職業が人間に孤立化と不具化とをもたらすことを逸早く指摘している。漱石は管理社会とか情報社会とかいうものを知らない昔に現代の悲劇を警告している。」(瀬沼茂樹「この本によせて」より)
[本書の内容]
この本によせて(瀬沼茂樹)
道楽と職業
現代日本の開化
中味と形式
文芸と道徳
私の個人主義
解 説(瀬沼茂樹)
この本によせて(瀬沼茂樹)
道楽と職業
現代日本の開化
中味と形式
文芸と道徳
私の個人主義
解 説(瀬沼茂樹)