数学の未解決問題であったABC予想が望月教授の手によって証明された。このABC予想とはいったいどんな理論なのだろうか。
【小山先生からのメッセージ】
この本は,東洋大学広報課を経由して出版社から依頼され,執筆しました.制作に当たり,理工学部生体医工学科の以下の2名の学生さんに手伝ってもらいました.
・箱﨑沙也加さん(構成担当・理工学部生体医工学科2年生)
・長原佑愛さん(挿絵担当・理工学部生体医工学科2年生)
彼女たちのおかげで書籍の完成度は高まり,素晴らしい内容の本ができました.2021年6月には,Amazonベストセラーランキング第5位(数学一般部門)となり,まもなく増刷が決まり,半年を経た現在もカスタマーレビュー4.8点(5点満点中)を獲得しています.
数学の難解な問題「ABC予想」の解説でありながら,長原佑愛さんの作によるキャラクター3名(沙耶ちゃん,佑くん,Zeta先生・図参照)の会話体で進行し,中高校生でも読める工夫がしてあります.
以下に,本書の「まえがき」を転載します.執筆の意図や目的が記されていますので,参考にしていただければ幸いです.
数学の難問「ABC予想」は,2012年に京都大学の望月新一教授によってウェブサイト上で解決が宣言され,その論文は8年あまりの査読期間を経て2021年4月に学術誌に掲載されました.この間,私のもとに多くの新聞社・出版社・テレビ局から問い合わせがありました.取材陣に共通していた認識は「内容はわからないが,何やらすごいらしい」ということでした.
・「数学的な中身は別にして,これがどれだけすごいことなのか教えてほしい」
・「そのすごさを何かに例えて説明してもらえないか」
私はこうした要請に応えながら,「ABC予想」を説明することは,あたかも,「走ること」を知らない宇宙人に「100メートルを9秒台で走ることのすごさ」を伝えるようなものであると感じました.
知らない競技の業績のすごさを,どうすれば伝えられるでしょうか.走法の技術を説明しても意味がありません.地球上に陸上競技というものがあり,100メートル走は注目の的であること.まずそこから話す必要があるでしょう.いや,むしろその前提となる,走ることが人にとって自然な行為であること,地球の子供たちが駆けっこをして遊ぶこと,走る行為が爽快であること,速く走ることに対して人類が抱いてきた憧れ,それらにさかのぼった説明をすべきでしょう.
突き詰めれば,記録に価値がある理由は,それが人間にとって根源的な欲求であるからです.数学の定理も同じです.本書は「ABC予想」に対し,そうした観点から解説を試みたものです.速く走る理由は,追ってくる猛獣から逃げるためでも迅速に移動するためでもありません.ABC予想も同様で,実用的な目的のためではなく,その解決が人類にとって根源的な欲求であるからこそ価値があるのです.数学者が心に抱いてきた「ABC予想」の意義を共有して頂くために,本書を執筆しました.一人でも多くの方々に多少なりとも「ABC予想」の真価をわかって頂くことができれば,嬉しく思います.
2021年6月 小山信也